2008年7月1,2日八ヶ岳

週間天気予報をずっと見ていたが、ようやくチャンスが訪れた。
ここしかない。
前日に赤岳展望荘を予約。
中央線の特急に乗り、9時7分茅野駅到着。
朝1番の電車に乗っても8時台のバスには間に合わない。
10時台のバスでは遅すぎる。
9時台のバスは土日祝日のみの運転。
仕方がないのでタクシーで美濃戸口へ。
30分5000円。
バスよりも時間を20分節約できる。

美濃戸口にある八ヶ岳山荘。
バス、タクシーはここまで。
ここから美濃戸まで砂利道があるが、道はあまりよくない。


徒歩で美濃戸に向かう。
砂利道で、時々車が通る。
1時間弱で美濃戸山荘に到着。


この先で、道が二つに分かれる。
右は南沢、左は北沢。
今回は右の南沢に入る。

時々道が分からなくなる。
踏み跡が正しい道とは限らないから注意が必要だ。
赤い目印が頼りだが、肝心なところでなかったりする。

タクシーの運転手の話だと、昨晩は遅くまで雨が降っていたそうだ。
水に勢いがある。
これが橋?
こりゃないよ。
元々細くて不安定な上に、濡れて滑りやすくなっている。
恐る恐る渡る。
川を歩こうかとも思ったが、水の流れが速くベストの選択だとは思えなかった。
ここでもし転んだらと思うとぞっとした。



こちらはもはや橋ではない。
有名な山なんだから、お願いしますよ。
川を渡る。
ハイカットのゴアテックス製登山靴だから何とかなった。
ローカットなら靴の中は水浸しになっただろう。



迷子になりそうな深い森を延々と進み、ようやく山が見えた。



行者小屋に到着。
ここまで美濃戸から2時間。
ここでカレーライスを食べる。
有名な山だけに山小屋がたくさんあり、水と食料には困らない。
ただ、やっていない可能性もあるので注意した方がいい。
なぜカレーライスで15分も待たされるのかよく分からない。
時間を節約したい人は食料を持っていた方がいいだろう。
それと、きちんと食事してしまうと、その後の登りはきつくなる。
おにぎり1個程度を数回に分けて食べるのがベストだと思う。



行者小屋からしばらく登ったところからの横岳の眺め。



急な階段の向こう、遥か上に目指す赤岳が見える。



険しい登り坂。
振り返ると行者小屋があんなに小さい。
明日行く予定の硫黄岳がなだらかな曲線を見せている。



赤岳山頂が近づいてきた。
この辺は神経を尖らせていかないと危ない。
途中道が分からなくなった。
まさかここを登るの?
登ってみたらやっぱり違う。
そうすると降りられない。
下りは上りよりずっと難しい。
やばい!
ここから落ちたら確実に死ぬ。
こんなところで死んでたまるか!
もし落ちたら多くの人に迷惑がかかる。
ずるずると下り、何とか元の道に戻ることができた。
教訓
確信が持てない時は、他の可能性について十分検討すべし。




険しい岩場で振り返る。
阿弥陀岳の山容が見事だ。



ついに八ヶ岳最高峰、赤岳に到達!



山頂から見た赤岳頂上小屋。
こんなところに建てて大丈夫?



赤岳頂上小屋前で休憩する年配の夫婦。
険しい横岳、なだらかな硫黄岳。
左奥は蓼科山。
右奥は浅間山か。
遥か下に行者小屋が見える。



横岳の手前に、今日宿泊する赤岳展望荘が見える。
この道下るの?
本当に?
明日はあのぎざぎざした横岳の尾根を行くらしい。


午後4時、赤岳展望荘に到着。
きっと山小屋の中では最高ランクだろう。
食事はバイキングで美味しい。
個室がたくさんあるのが魅力的だ。
何と風呂まである。
ただし、シャンプーはできない。

5時半から夕食で6時には食べ終える。
夕方の風景を撮ろうと思っていたのだが、吹雪のような強風で雲が吹き上がってきてそれどころではない。
しばらく待っていたがどうにもならないので早々に寝る。
頭が痛い。
富士山以外で高山病になるとは思わなかった。
日帰りなら下ればいいのだが、高いところで泊まると一晩中頭痛が続く。
これは辛い。
心拍数がまるで走っている時のように速い。

夜中にトイレに行く。
部屋の電気自体が点かない。
ヘッドライトをつけて進む。
山小屋で宿泊するためにはヘッドライトが必要不可欠だ。

午前4時40分起床。
しまった!
すでに日が昇っている。
体調が悪く、なるべく寝ていようと思ったのだが、無理にでも起きるべきだった。
急いで外に飛び出すと、雲海の上に浮かぶ富士山が見えた。
日の出直後で、柔らかい日を浴びて雲がうっすらとピンク色に染まっている。



朝日を浴びて輝く赤岳と富士山。



北西方向には北アルプス。
思わず涙が出た。
来てよかった。



5時半からの朝食を食べ終え、6時過ぎに出発。
すばらしい山小屋だった。
布団も厚みとクッション性があり、旅館よりもずっといい。
朝食もバイキングで美味しかった。

山小屋は風力発電や太陽光発電で電力を賄っている。



東に朝日を浴び、雲海の上に浮かぶ瑞牆山、金峰山を含む山塊。



見たとおりに険しい横岳。
ロッククライミングに近いところもある。
しかも時々どこを登ったらいいのか分からない。
昨日の教訓を生かし、落ち着いてゆっくりといろんな選択肢を考えてから登る。

道標の左に見えるのは御嶽、右が北アルプス。



しばらく行ったところで振り返る。
赤岳山頂荘と赤岳展望荘が見える。



御嶽は独立峰で、その山容は見事だ。
いつか登ってみたい。



蓼科山の向こうに北アルプスの尾根が延々と続く。



まるでロッククライミングのような険しい山を登り振り返ると、赤岳の南に南アルプスが見えた。



太陽の熱で雲海は徐々に消え、瑞牆山、金峰山方面が幻想的な光景を見せた。



人を怖がらず、近くで威勢よく鳴くこの鳥の名前は?



山は花盛り。
左は木曽駒ケ岳、空木岳。



ようやく横岳に到着。
富士山、赤岳、南アルプス。
ぞくぞくする光景が広がる。



硫黄岳方面。
ようやくなだらかな山容の中を進む。



左奥が硫黄岳山頂。
手前に硫黄岳山荘が見える。



高山植物の花咲く向こうに北アルプスが見える。



硫黄岳山荘で休憩。
飲み物を調達。
500mlの水やスポーツドリンクの相場は400〜500円だが、自分で持って上がることを考えれば安いものだ。
こちらから見ると地面に埋もれたようだが、中はなかなかきれいで立派だ。



大きくえぐれた硫黄岳の火口。
向こうに浅間山が見える。



硫黄岳に到着。
もう降りるの?
降りたくない。
もっとここにいたい。



雲海の向こうに木曽駒ケ岳、空木岳、御嶽。
感動的な光景が広がる。



森の中を下る。
下りが続くのはきついが、昨日の道よりはずっと分かりやすく安全だ。

赤岳鉱泉に到着。
ここでラーメンを注文。
15分以上待たされる。
どうしてどこもこんなに待たすのか。
山小屋で食事というのは邪道かも知れない。



北沢は道も分かりやすく、しっかりとした橋が架かっていて南沢よりもずっと安全だ。
沢も水量豊富で美しい。







美濃戸山荘に到着。
ソフトクリームを食べる。
振り返ると、右南沢、左北沢と書かれた標識。



昨日来た道を戻り、美濃戸口へ。
八ヶ岳山荘でバスを待つ間に風呂に入る。
ここはシャンプーすることができる。
茅野までバスで50分、900円。
タクシーは直進するが、バスはやたらと回り道する。
しかしゆったりしていて旅情があっていい。

八ヶ岳はガイドブックに上級者向けと書かれているが、確かにその通りの険しい山だ。
簡単に人には勧められない。
一つ間違えば確実に死ぬ。
そういうところが無数にある。
運動不足の人、太り気味の人は初級者向けの山ぐらいにしておいた方がいい。
しかしこれほどの感動が他にあるだろうか。
さすが名だたる山だけのことはある。
登りたいと思ったら、まず毎日運動することから始め、本を読んで装備を整え、しっかりと準備しよう。
この山で、もし風が強かったら、雨が降ったらどうなっていただろう。
今回は最高のコンディションだった。
たとえそこしか休みがなくても、天気がベストでなければやめておいた方がいい。
命が危ない。
必ず天候の安定した時に登ってください。
出発は可能な限り早い方がいい。
日が昇ると地上が温められ、上昇気流が生まれ、雲が増える。
午後からはどんどん天気は悪くなる。
もしホワイトアウト(ガスが出て真っ白で何も見えなくなること)したら?
雷も怖い。
とにかく余裕を持って早めに行動してください。

日の出は日の入りのようなものだと思っていたが、大きな間違いだった。
夜は地表が冷え、下降気流が生まれ、空気が澄む。
澄んだ空気の中で見る日の出は日の入りとは全く違う。
今回は体調が悪かったこともあり見逃してしまったが、次回はぜひ見たい。
撮影は暗くて難しくなるかも知れない。
三脚?
うーん、持てるかなあ。
いざという時のための雨具、リュックカバー、フリースなど必要不可欠な装備だけて手一杯かも知れない。

連れがいるからと思って気安く登ることも問題だとは思うが、単独登山もやはり危険はある。
しかし誰も一緒に登ってくれないから仕方がない。
登山計画書を作り、家族に持っておいてもらい、ルートは変えない。
平日に人気のない山には登らない。
万全の装備で細心の注意を払って登る。
可能な限りのことはしているつもりだ。
ここぞという最高の天気の時に登ることのできる身軽さはメリットだし、好きな時に好きなだけ止まって景色を眺め、写真を撮ることができるというのも大きい。

山に登ると人がよくなる。
人がよくないと命に関わる。
気分が開放され、「写真撮りましょうか?」と声をかけたりするのも普段では考えられない。
何より、ここにいる人達は、同じ目的で、同じ険しい山を登ってきた同士なのだ。